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(「たんぽぽ荘」二一へ)
不定期連載小説

「たんぽぽ荘」



−23.英会話−
 
 ある日自分の部屋でゆっくりしていると井植君が呼ぶ。
 「電話よー」
相変わらず機嫌がいい。
 たんぽぽ荘の新館へ抜ける通路には共同の電話があって、その電話が鳴ると通りかかった者が出る事になっていた。
 でもふだんはちょっと気の毒だけど一番近くの部屋の井植君が電話番の役目をしていた。
 「女性からよ。うひひひ・・」
井植君が意味ありげに笑うがもちろん心当たりはない。
それどころか自慢じゃないがこの十八年間、女性にもてたことはない。
「はい・・」
電話に出てみると英会話の営業だった。
フレンドリーな話し口でどんどん話を進める。
相づちを打ちながら話につきあっていると今度の日曜日に県庁所在地の駅まで出てきてくださいという。
ここからは4つ先の駅である。
 こういった電話に初めて出会った僕は同意しなければ電話が終わらないと思い、何となく同意してしまった。
どうしようかと思案しながら部屋に向かうと井植君が出てきてどうだったかと聞くが僕はうわの空で「ああ」と答えたきりだった。
後から考えてみれば電話の約束など無視して放っておけば良かったのだが、この時の僕は純粋に行かなければならないと思いこんでいた。
日曜日が来ると気がそぞろではなかったが遊びがてら行くことにした。
10時に駅の前が約束である。
電車に乗って駅を一つ、二つ。
自分でもお人好しだなと思いつつ車窓を眺めている。
 無理矢理勧めてきたら「金がない」の一点張りで押し切ろう。
 心に誓って僕は電車を降りた。
 駅を出ると一方的な約束通りの黒いバッグを持ったお姉さんが待っていた。
 嬉しそうに気安く声をかけてくる。
「初めまして」
律儀に挨拶する僕。
 「こちらが私どもの会社になっております」
駅前のそう高くないビルにそのまま案内された。
 建物の三階には『なんとか英会話』と書いてあるドアがありその中にはいるとついたてに仕切られた机と椅子が三つほどあった。
 奥の仕切りには僕と同じように呼び出された学生がセールスレディに熱心に商材を勧められていた。
僕は真ん中の仕切りに案内されると椅子に座りため息をついた。
 人がいいなあ・・・
 自腹で電車に乗り、貴重な日曜日をふいにしてわざわざセールスされに来るなんて・・ ちょっと苦笑いさえ出てしまう。
もっとも、隣の仕切りにもう一人お人好しがいるようだが。
待っていると僕を呼び出したセールスレディが嬉しそうにパンフレットを持ってきた。
差し出されたパンフレットをちょっと見ると英会話の通信教育の説明がなされていた。 「僕、こういうのやる気ないんですけど」 こういうことは最初に言っておかないとつけあがられたら困る。
「もちろんです」切り返しが早い。
 「いきなりお勧めすることは致しませんよ」
じゃあ何のために呼び出したんだって思っているとお好きなものは何ですかと聞かれた。
 「漫画です」
と答えると、
「どんなものが好きなんですか?」
 「手塚先生の作品が・・」
「ブラックジャックとか?」
「好きですね」
「私も大好きなんですよ」
「単行本は全部持ってます」
「へええ!・・」
「藤子先生も好きなんですよ!」
 もうこの辺まで来ると僕は何をしに来たのかすっかり忘れてしまっていて、後は実家にある漫画のコレクションの話をひとしきりさせてもらった。
英会話の通信講座の代金はローンで支払えると言う事くらいは話に上ったが、結局お金のない”漫画ヲタク”であると判断されたのか、この日には殆ど漫画の話しかしなかった。
僕が解放される頃にも隣の学生はまだいて担当のセールスレディから講座の受講をがんがん勧められていた。
何をしにきたんだろうと思いながらビルを出た僕は駅前の商店街をぶらりと見てから電車に乗った。
 帰りの電車の中で気がついたのだがあの会社は自分の名前と寮の電話番号をどうやって知ったのだろうか。
 多少気味悪く感じながらそのまま僕はタンポポ荘へと帰って行った。

−24.ステレオを買う−

 タンポポ荘へはよくセールスのお兄さんたちも訪れる。
あまり犯罪もなく問題も起こらなかったのでこの頃の寮には誰が来ても立ち入れた。
大体活気あふれる若者たちが二十人も住んでいるこの寮に犯罪目的で入る泥棒と言うのも想像できないので何の規制もされていなかったのだろう。大体盗られる物もない。
そんなタンポポ荘に恐れもなくやってくるセールスのお兄さんたちはかなりの強者であったろうと思う。
2〜3ヶ月に一度ステレオを売りにやってくるのだが、結構これがしつこい。
でも話がうまいのでなかなか断れないでいるうちに話に乗ってしまって買いそうになる。
「ローンは月々三千円からでいいですよ」 「三千円かあ・・」
ここで相づちなどを打とうものなら、
「じゃあここにお名前とはんこを・・」とくる。油断も隙もない。
 「いやあ、でもお金ないし・・やめときます・・」
 何とか持ちこたえて帰ってもらうとこれまでの時間がすごく無駄に思えてくる。
数ヶ月毎にやってくるので何度かこれを繰り返した。
そのうち浅本くんがこういった。
 「俺、ステレオ買うたわ」
 えっ、と僕は思った。
内心いいなあと思っていた僕は思わず問い返した。
「どう?よさそう?」
「おお、なかなか良さそうやで」
まだ商品が来ていないので良く分からないが、グレードの高いのにしたそうだ。
果たして数日後に来た商品はなかなか良さそうに見えた。
 アンプは薄型だがシルバーのインターフェイスでクールなイメージを醸し出している。
 スピーカーもハニカム振動板を採用した先進的なやつだ。
 メーカーもSONYだったし。
これで僕は決心がついた。
 「よし、僕も買おう。」
 僕は浅本くんにこう宣言して次回の訪問を待った。
 2週間ほどしてセールスのお兄さんがやってきた。
先日の三千円ローンで四十八回払い。
いろいろ説明してくれたが買うことを決めていたのでこのときは即決で契約した。
ただ、カセットデッキのグレードを一つ落とした。
 後で村止さんの所に行ったときにこのことを言うと、いきなり「馬鹿、やめとけ!」と言われた。
 やはり評判の悪い業者だったようだ。
 「その値段ならもっといいやつを紹介してやるよ」
 村止さんの提案もなるほどだと思った僕は次の日にキャンセルの電話をした。
 電話に出た担当者は今更キャンセルは困ると言う。
 「クーリングオフ期間ってあるでしょう?」と聞くと、
 「特別キャンペーンで長期ローンを組めるようにしているのでできないんですよ」
と言う。
 そんな話があるかと思いながらそんな話は聞いてないと言うと、
 「デッキの機種変更をしただけでも無理したんですからお願いしますよ」
と泣きついてきた。
 僕は泣きつかれるのに大変弱い。
少しコンポーネントが欲しかったのでやっぱり買うことにした。
 その後村止さんにはさんざん言われたが、このステレオはそれなりに楽しめた。
もっとも、このコンポはローンが終わる頃には見事に壊れていた。

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