たんぽぽ荘,最終回,青春,終わり
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(「たんぽぽ荘」三二へ)
不定期連載小説

「たんぽぽ荘」



−35.その後−

新入生だった僕達は無事に2年生になり、幾人かがタンポポ荘を出ていった。
僕の同級生では浅野と井植と僕、それに竜田と田中が残った。
4年生3人は卒業し、2年生の3人がタンポポ荘を出ていき、これまで2年生だったみんなも出ていってしまった。
代わりに11人の新入生が入って来る。
僕達は一応先輩と言うことになったが、僕はどうも先輩というガラではなかった。
特に寮のしきたりであるどこでも挨拶には耐えられなかった。
「こんにちは!失礼します」
学校のキャンパスで大声でこれをやられるとどこかに消えてしまいたい衝動に駆られてしまう。
それでいて無視されるとばかにされているようで、妙に腹が立った。わがままなものである。

そんなおり、僕がタンポポ荘を出るきっかけとなる一つの事件があった。
僕は2年になると藤多さんがいた2階の四畳半に移ったのだが、ここは見晴らしがいい代わりに階段の上り下りが面倒くさい。
何かを持って上り下りすることなどとんでもなかったので、極力ゴミは出さないように努めていたのだが、たまたま藤多さんが遊びに来た時、お茶を出すことにした。
最近は飲んでいない古い番茶を、急いですすぎいだかびくさいきゅうすに入れ湯飲みに注ぐ。
お茶は安物なのであまりおいしくはなかったが、とりあえずのもてなしに藤多さんは喜んだ。
さて問題は使い終わった茶っ葉の後始末である。これがめんどくさいので最近お茶を飲んでいないのだ。
僕と同じくめんどくさがりの藤多さんが察して言った。
「これ、後がめんどくさいやろ?」
「分かりますか」
「ええこと教えたろか?」
「お願いします」
「こうすればええねん」
出がらしの茶ッ葉っを手に立ち上がった藤多さんがシンクに向かう。
そして排水溝を”ぱかっ”と開けて水道の蛇口をひねり、水を流しながら中に出がらしの茶っ葉を少しつまんで入れた。
「な、こうすればええやろ?」
「おおっ」
僕は目からうろこが落ちたような感動を覚えた。
「さすが藤多さんだなあ」
「そしてな。こうすればええんや」
少し流れが悪くなると藤多さんは針金ハンガーをほどいて先を排水溝に突っ込んだ。
がしゃがしゃやっているとまた流れだす。
「な?」
「ほんとですね!」
グッドアイディア!
これ以来僕は自分の部屋でお茶を良く飲むようになり、せっせと茶っ葉を流しに流すようになった。
排水が悪くなってくると針金で何度も”がしゃがしゃ”やる。また流れが良くなる。この繰り返しだ。
ある時、入り口の土間がびっしょり濡れてきた。
流しの下を開けてみると、ホースが外れて水が噴き出している。
「なんだ。こいつのせいか・・」
針金で突きすぎたようだ。
僕は外れたホースを元通りつないで床をぞうきんで拭き、また”がしゃがしゃ”やった。
この時はこれでいいのだが、そのうちまたホースが外れる。
そして何度か同じ事を繰り返していると、とうとう水が排水されなくなってしまった。
「まいったなあ」
ひとりで困っていると、下から誰かが階段を上がってくる。
”こんこん。ガラッ!” ノックと同時に引き戸が開いた。
底には一年生の近藤が困ったようなあきれたような、なんとも形容しがたい表情で立っていた。しかし少し笑みを浮かべてはいる。
「先輩、どうしたんですか?井藤の部屋びしょぬれですよ」
井藤というのはこの部屋の真下で、井植君が前にいた部屋に入った新入生だ。
木造アパートの二階で何度も水をあふれさせると当然階下の部屋には水が染みこむ。
当時の僕はこんな単純な事も分からなかった。
しまったとは思ったが、もう後の祭りである。
かわいそうに、度重なる浸水で井藤君の部屋の布団やテレビ、ステレオ等はびっしょり濡れてしまっていた。
僕は平謝りに謝って何とか弁償を申し出たが、井藤君はあきらめ顔で受け取らなかった。
これは相当気まずい。
更に排水パイプの中には何度も詰め込んだお茶ッ葉が詰まっていて、業者を呼んで取ってもらわなければどうしようもなかった。
大家さんは怒るかと思いきや、平身低頭の僕に「藤多くんが教えたんやろう」と言ってにこにこしている。
僕はただ謝るしかない。
考えてみるに、これまで流したお茶っ葉は無事に下まで行き着いても建物外の溝に出て溜まっていたはずだから、 これまでずっと藤多さんが流していたのを大家さんは知っていたのだろう。
何度謝っても大家さんは藤多さんのせいよと言うばかりであまり取り合ってもくれなかった。
これまで食費問題でトラブルがあった藤多さんの落ち度を見つけたので却って嬉しかったのかもしれない。
とにかくこれ以降、僕は大家さんにも井藤君にも頭が上がらなくなってしまった。
どうにも居づらくなって2年が終わる頃には早々にアパートを探して出ることにした。
僕はそれ以来タンポポ荘には行っていない。

−タンポポ荘 終−

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「タンポポ荘」に大幅に加筆訂正!新たなエピソードも加えて再編集!
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