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(「たんぽぽ荘」八へ)
不定期連載小説

「たんぽぽ荘」



-9.村止さん-

村止さんの下宿は、たんぽぽ荘を中心に黒川さんのアパートとは反対側にある。
最初は家が分からないので学校が終わった後、たんぽぽ荘で待ち合わせた。  
村止さんはベルーガというスクーターでやってきた。
「よっ。」
「こんにちは。」
「待たせたな。」
僕が駐車場に立っていたので気を遣ってくれたようだ。
「いいえ。」 僕が答える。
「じゃあ、俺のうちに行こうか。」
僕が歩きなので村止さんもスクーターを押していく。
「お前この前どう思った?」  
この前にあった漫研の集まりの事だ。  
「そうですね。まだよく分かりませんけど、何だか皆さん色々詳しいですね。」  
「みんなアニメは好きだな。」  
まだそんなに親しくないので会話も少ない。  
目的の下宿はそんなに遠くはない。
15分ほどで到着した。
部長の下宿は4人ほどが間借り出来るようにしてある民家の一室。
家の入り口から入って廊下を奥に向かって行き突き当たりの6畳間が村止さんの部屋だ。 ガラスの引き戸を開けるとベッドと沢山の漫画雑誌やコミック、文庫本が目に入る。
その間には衣類が見え隠れしていた。  
当時の学生の部屋なんてこんなものだ。  
「ちょっと待ってな。」
村止さんが先に入りカーテンを開け、座れる場所を作ってくれた。
「失礼します。」
「いいものを喰わせてやる。」
掘り起こした電気ポットを持って村止さんが出ていく。  
すぐ近くで水道の音がした。  
隣が流しになっていて、そこでポットに水を汲んでいるようだ。
その間に僕は部屋の様子を観察した。
文庫本は栗本薫氏のグイン・サーガのシリーズが多いようだ。
僕は見た事のない作品なのであまり関心はない。
「ふーん。」
何だか感心しながら漫画を探す。
なかよし、花とゆめ。  
雑誌は少女漫画が多い。  
単行本は「エロイカより愛を込めて」をはじめ「ガラスの仮面」「パタリロ!」...  
やっぱり少女漫画が多かった。  
後で思えば漫研の会合で話題になった作品群とはちょっと嗜好が違うのだが、少年漫画と推理小説しか読んでいないこの時の僕にはみんな一緒に思えた。
とにかくすべて未知の世界だった。
「ふーん。」
僕はただ感心する。
「どうだ。読んでもいいぞ。」
村止さんがマグカップと水を入れた電気ポットを持って入ってきた。
「これはね。とっても面白いんだよ。」
電気ポットに掘り出したコードを差し込みながら村止さんは「パタリロ!」を勧める。  
失礼ながら、内心『少女漫画か...』と思いながらぱらぱらと見てみる。  
当時少女漫画は同性愛ものがはやっていて、この漫画も例外ではなかった。
硬派と言うわけではないけれど、少年漫画しか見ていなかった僕には正直バンコラン(登場人物の名。男色家。)にはついていけなかった。
魔夜峰央先生の「パタリロ!」はストーリーやギャグが面白いのだが、このときの僕にはバンコランのインパクトが強すぎた。
「すごいですね。」
僕にはそれぐらいしか答えられなかった。

-10.レモネード-

「いいもの聞かせてやろうか。」
マグカップに粉末性の飲み物を入れながら村止さんは言った。
「ええ。」
返事はしたが、僕は村止さんの入れてくれる飲み物の方が気になった。
粉の色は黄色、ビタミンC の豊富なレモン味のあれのようだ。
僕は酸っぱいのは苦手なので、ちょっとびびった。
粉を入れ終わると村止さんは立ち上がり、カセットデッキにテープを入れる。
スイッチを入れるといきなりハードロックの大音響。
エレキギターなどはアニメソングで使われているものしか聞いたことのなかった僕は度肝を抜かれた。
「な、いいだろう。」
びっくりして聞き入っている僕に村止さんは言った。
「マイケル・シェンカーって言うんだよ。
このエレキの早びきがたまらんだろうが。」
確かにすごい..ような気がした。
何しろ初めての体験なのだ。
いいか悪いかなんてよく分からない。
でも何かすごいパワーを感じた。
「すごいですね。」
僕はこの一言しか言えなかった。
ポットのお湯がマグカップに注がれる。
酸っぱいにおいが立ちこめてきた。
「ああ、やっぱりあれだ..」
ちょっとさびたスプーンでかき混ぜながら村止さんはカップを差し出した。
「どうぞ。」
マイケルシェンカーの興奮と酸っぱい臭いとで背筋はぞくぞくしたが、僕は覚悟を決めた。
「いただきます。」
 熱いので少し口に含んだ。
口の中に酸っぱい味が広がってちぢみあがるような感覚に襲われる。
「どう?うまいだろ。体にもいいんだよ。」
「そうですね。」
むせかえりそうになりながら僕は答えた。

(十一へ)

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