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(「たんぽぽ荘」十一−十二へ)
不定期連載小説

「たんぽぽ荘」



- 13.食堂で -

目が覚めたのは夕方。もう5時を回っている。徹夜明けは気分が悪い。
 「馬鹿なことしたなあ」
体を動かしたくはなかったがどうにか起きあがった。
窓から夕日が差し込んでいた。
 外は静かだ。時折食堂の引き戸の開く音がする。
気分は悪かったが夕食は食べることにした。
なんせ一日880円払っているのだ。
食べないともったいない。今日は朝ごはんも食べていないのだ。
少しぼーっとした後、自分の部屋の引き戸をがらがらと開けて通路に出る。
薄暗い。
 寝ぼけまなこで通路を出て食堂に向かう。
しめた。食堂には人の気配がない。
十九名の寮生に対して三つのテーブルに各四つの椅子とカウンターの三つの椅子を併せて計十五席しかない。
しかもみんなが一斉に押しかけると先輩後輩入り乱れてぎちぎちになるので気を遣って仕方がない。
大体こんな事情で新入りの僕たちは食堂の磨りガラスの外から様子をうかがった後に中に入るのである。
食堂から最後に出るときには節電のためにテレビと電気を消す決まりになっているので、誰もいないときには調理場の薄明かりがついているだけだ。
この日はまさにこの状態だった。
食堂に入って電気をつけ、カウンターを眺める。
今日のおかずはカレイの油で揚げたやつだ。
 お姉さんがカウンターの上に並べてくれているお皿を一瞥し、大きなジャーに入ったみそ汁をお椀につぐ。お茶も湯飲みにつぐ。
 おかずのお皿をテーブルに置いてからご飯をよそう。前にも触れたが、茶碗が小さい。
でも二杯までの決まりだ。
 だから一人の時は少し多めに入れる。
準備も整ったところでそそくさと食べ始める。
前にこっそりご飯を大盛りにして食べようとしたところに突然お姉さんが奥から顔を出し注意された事があるので、こういった時はご飯は最後につぎ急いで食べることにしている。
もそもそとご飯を食べているといきなり入り口の戸が開いた。
吹き出しそうになりながらそちらを見ると学校から帰ったのかナップサックを背負った竜田が立っていた。
「あー。食べてるー」
何とも言えない間延びした一言を発し、竜田は入ってきた。
彼はマイペースな男で、自分のペースを崩さない。
テレビをつけ、荷物を椅子に下ろし、ご飯を茶碗にてんこ盛りについだ。
三杯分ぐらいだ。
 僕は感心し「さすが竜田だな」と思う。
その後竜田はみそ汁とお茶をつぎ、おかずを取って黙って席に着いた。
竜田がつけたテレビは『銀河旋風ブライガー』をやっていた。
ご飯が制限されだしたのは、もちろん大食らいの学生たちが際限なく食べるからだ。
どこまでも食べられては当然寮の経営もやっていけなくなる。
絶対量は増やせない。
 当然遅くやってくる事の多い上級生たちには何も残っていないということがしょっちゅうあり、このようなきまりが作られた。
しかしこの決まりも度々破られ、目を盗んでは大量にご飯を食べる学生が後を絶たなかった。
でも竜田は違う。彼は誰の目を気にすることもなく堂々とてんこ盛りのご飯を食べる事のできる男なのだ。
さすが熊本男児である。
小心な僕は感心しながらも食事を終えると特に話もせずそそくさと食堂を出た。

  - 14.風呂 -

十九人もいるとお風呂も大変である。
この寮には旧館新館それぞれに一つずつお風呂があるが、ボイラーでうるさいので夜10時以降にはお湯を沸かさないでくれとのお達しが大家さんからあった。
隣接する家屋で大家さん家族が生活しているので眠れないというのが理由である。
しかし一つのお風呂に十人が殺到するのだから後に回った者は10時以降になることもしばしばある。
順番も暗黙のうちにできていて最初は僕もとまどった。
ろくな説明もなかったのでよく分からない僕は部屋でじっとしていて、お風呂の引き戸ががらがらと開くとチャンスとばかり飛び出し風呂場に飛び込んだ。
とたんに二階から紀村さんの大声。
「今入ったやつ!次は俺やぞ」
紀村さんは少林寺拳法部でちょっと怖い。
「す、すいません」
こちらも大声で謝る。
「まあ、ええわ。出たら呼んでな」
謝れば話の分かるいい人だ。
しかしこの後順番の取り方がよく分からず、僕はしばらく10時以降にこっそり風呂に入ることになった。
前に入っている人に声をかけて「次お願いね」って言っておけばいいだけのことだと気づいたのは大分してからのことだ。
10時以降の風呂のお湯は少なくて汚かった。
くそまじめな僕は例の決まりによってお湯を足せないし湯船にはつかれないしで水をかぶったこともある。
遅いみんなはどうしているのかと思えば、やっぱり堂々とボイラーを炊いていた。

例によって浅野くんの部屋に集まっていたとき、浅野くんが青い顔をしてこんな事を言った。
「あのなあ。きいてくれんか」
「どうした?」
ただならぬ彼の気配に僕もぞくぞくした。 浅野君は本当にびびっていた。
「あのなあ。わいがな・・・」
「うん。うん。ごくり・・」
僕達も息をのむ。
「夜中の2時にな」
「うん。うん」
「目がさめたんや」
「うん。うん」
「そしたらな・・」
「うん。それで?」
浅野君は語るのも恐ろしげに言葉をとぎらせる。
「誰かがな」
「風呂に入っとるんや」
浅野君の部屋は新館のお風呂の隣にある。 深夜2時に隣の風呂場からぴちゅぴちゃと音がするというのである。
一同しんとなった。
「だれやろな」
ここの大家さんは巫女さんの格好をしてお払いのようなことをやっているので、何か人間ではない者が入っていたのではないかという怖い期待からみんなびびってしまった。
沈黙を破ったのは経営工学科の西先くんである。
「俺・・」
「?」
「昨日その時間に風呂に入ったけどな」
「浅野ー。しっかりしてくれよー」
 とたんに浅野くんの狼狽ぶりのおかしさで大笑いとなった。
自分達もびびっていた事は棚に上げて。

もう一つ怖い話がある。
やはり深夜だ。
こちらは0時頃の話。
旧館の僕の部屋の隣には部屋である浅本がいる。
 6畳間で裏庭に面した窓にはまだカーテンを掛けていなかった。
彼が気配を感じてふとそちらを見るとなにやら白いものが横切る。
通りすぎては戻ってくるその白いものから彼は目を離すことができなかった。
やがてそれは近づいてくる。
”こんこん”
幽霊がノックした!
さすがの浅本も肝が冷えたようだ。
窓の鍵はかかっていない。
”こんこん”
ノックがもう一度。
「浅本くん」
聞き覚えのある声がする。
抜けた腰を引きずって窓をあけるとそこには巫女の格好をした大家さんが立っていた。
「早く寝なさいよ」
「はい・・・」
胸をなで下ろしながら浅本は返事をした。
このおばさんはこの後も深夜裏庭でうろうろしていたようだが、何か修行のようなことをしていたらしい。

(十五に続く)

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